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ミウラとヒト

「ソーラーカー」を真ん中に語る!技術者達のものづくり哲学(前編)

ミウラが「ワールド・ソーラーカーレース鈴鹿」に出ていたことをご存知ですか?「ワールド・ソーラーカーレース鈴鹿」とは、三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットで毎年8月に開催されていたソーラーカーレース(2021年第29回大会で終了)。ミウラは1992年と1993年に出場しました。
今回は1993年にチャレンジした時の設計者お二人と、学生時代にソーラーカー製作の経験がある若手設計者の座談会です。試行錯誤のソーラーカーづくりのお話には、ものづくり哲学にあふれていました。

プロフィール

たなか おさむ田中 收

TANAKA Osamu

九州大学助手を経て1982年三浦工業入社。横ヒレ付き缶体、新規燃焼機器等の開発に携わる一方、水循環基礎を解明、1990年九大博士号取得。三浦研究所を経て、技術推進室にて熱・エネルギー機器開発、工場・プラントシステムの解析等の技術を支援。愛媛大学講師・客員教授のほか学会活動や学会賞授与等にも貢献。

田中 收

たけだ ともひさ武田 知久

TAKEDA Tomohisa

資材調達統括部

1985年入社、社歴40年。生産技術部開発課、水処理商品開発部、ミウラカナダ駐在、技術部開発課、三浦研究所、GBL調達部、生産統括部、R&D製造加工開発室、資材調達統括部(現職)を歴任し、ものづくりの現場はひととおり経験。趣味は、釣りと旅行 + 面白そうなことを創造しやってみること。

武田 知久

たにもと きいち谷本 輝一

TANIMOTO Kiichi

生産技術部

2022年入社。都城メンテに配属、2023年に生産技術部に異動。ものづくりの自動化に関する業務を行う。趣味はマラソンやサイクリング。毎年、各地のマラソン大会に参加。学生時代に鈴鹿サーキットをソーラーカーで走る「鈴鹿4時間耐久レース」のチームに参加、ソーラーカー製作経験あり。

谷本 輝一

やりながら考える!

谷本さん
92年のソーラーカーレース出場は、学生の夢への応援として企画し、社外の力も借りたレースだったと聞いています。
翌年の93年は、ゼロから社内でソーラーカーをつくって参戦されたとのことですが、お二人が大会に参加しようと思った経緯はどんな感じだったのでしょうか?
田中さん
実は、明確なきっかけって私もよくわからないんです。
92年の参加者から「やろうよ!」と声をかけられて参加しました。

武田さん
僕が参加したのは田中さんより後です。レースを2ヶ月後に控えたタイミングで「足回りの設計する人おらんから、誰か手伝って」って言われて、手伝うことになりました。
田中さん
手を挙げる人がなかなかいなかったんですよ。というのも、経費の援助はあるけれどレースまでには半年しかなく、平日は仕事があるのでボランティアで土日返上でやらないといけないから、時間的にもかなりハード。
つくる場所がない、やる人もない、技術もないから情報集めないといけない。三浦工業ではメカをやる人が少なかったから、試行錯誤の日々でした
そうそう、こんなんだったな~
武田さん
僕が加わったとき、大枠は完成していましたが、ハンドルやブレーキは未完成で動かなかったんです。そこで、足回りの図面を書いて、ボイラの試作室に頼んでつくってもらって・・・
サスペンションはダブルウィッシュボーン!
田中さん
全体の図面を描いてから、設計するんじゃないんですよ。
やりながら手直ししながらやっていくんです!
谷本さん
そんなに手探りだったんですね。ステアリングとかって、何か参考にしたものはありますか?

武田さん
機械のリンク機構を参考にしました。ブレーキは、その辺で買える自転車のブレーキを使っていました。
田中さん
ソーラーカーの製作にかけられるお金の枠は決まっていて。トータルで1,000万円ぐらいだったと思います。必ず必要なのがモーター、バッテリー、ソーラーパネル。特にソーラーパネルはお金がかかるので、これだけで700万円使っちゃう。その分、ほかの部品を節約しないといけませんでした・・・。

モーターはDCモーターを使いましたが、日本製じゃないんです。アメリカからの輸入で、届くまでに2ヶ月かかる。電池はバッテリーですけど、ニッケル水素。ニッケル水素って個性があるんですよね。だから多少多めに買って、その中からいいやつを選ぶんですよ。個性によってつなぎ方(配列)も変えないといけない計測して接続し直し、また計測して、の繰り返しで最適な方法を見つけていきました。
バッテリー残量を計算中!足りるかな・・・
武田さん
何かひとつ作業が終わったら、別の不具合が見つかるんです。ハンドルができたと思ったら、「ブレーキが効かないやないか〜!」とか。
ブレーキは効くように直したけれど、部品はその辺りで買える市販品の組み合わせなので、1回のシリンダーの油の量が足らず押し切れない。
だから、2回踏まないと効かないブレーキしかつくれなかったんです。いわゆるポンピングブレーキですね。
ブレーキ大丈夫かな・・・
田中さん
しかも車体が重くなったこともあり、踏み込んでも完全に止まらないブレーキでした。
武田さん
ブレーキ周りの剛性や配管なども影響したみたいですね。でも、時間もなかったし、お金もなかったから、もうそれで行くしかなかったんです。
ちなみに、そんなブレーキの状態が予選時にドライバーにうまく伝わっていなかったみたいで・・・
本人はブレーキ効かなくて焦ったらしいけど、そのおかげでいいタイムが出たので結果オーライ。
スタートは、先頭グループでGO!
谷本さん
すごい・・・。なかなかスリリングな試合だったんですね!
でもピリピリした感じじゃなくて、おおらかな感じが伝わってきます。
田中さん
大会は2日とも天気が悪かったから、充電で走り切らないといけなかったんです。レースのドライバーには、ブレーキ踏むと電池消耗しちゃうから「踏んだらだめよ」って伝えてました。
武田さん
「でも、ブレーキ使うときは2回踏まないと効かんぞ!」とも(笑)
ブレーキは効かんぞ!
田中さん
慣性力だけで走れるから、坂は登り切ったら「もう踏むな!」って。
谷本さん
すごい指示ですね(笑)
武田さん
無線をどうするかも悩んだよね。無線買うと高いから、携帯電話を2日間だけレンタルしたかな。
田中さん
携帯でドライバーとやり取りしながら、指示を出すんです。「まだ回れる」とか「電流がどのくらい残っている」とかね。
激走中!エコーズZⅡ
ホンダドリーム号を追う!エコーズZⅡ
田中さん
2日目の8時間耐久レースでは、ピットまで戻って来れなかったのは残念でした。最後の1周は「鈴鹿の坂は無理かもしれない・・」って分かっていたけど、ドライバーの意思を尊重して行かせました。でも、止まっちゃいましたね。

みんなでつくる

谷本さん
ソーラーカーをつくったことで、みなさんに与えた影響ってどんなことがありますか?

田中さん
新しいことにチャレンジすること、興味を持ってやること自体が、その後の仕事に活かせられたと感じています。
ものづくりは、やってみないと分からないことだらけ。開発の仕事ではいろいろ失敗もありましたが、それが許される環境でした。チャレンジさせてくれる環境に感謝です。
谷本さん
チームワークもよくなったのではないですか?
試運転もアットホームでワイワイ♪
武田さん
そうですね。土日にやっていた作業も、最後の方は平日の仕事終わりにも集まってやってましたね。文句を言う人はいませんでした。
その後の仕事にも、その関係性は生かされました。昔は、生産技術部と技術部が隣だったんですよね。だから、今まで以上にお互いが協力しあえるようになりましたね。
田中さん
ものをつくるところ、開発するところが全部一つの部屋にあったから頼みやすかったんですよね。1人が「お〜い」って言ったらみんなが集まる。
今風に言うとワンフロアだったね、人も少なかったし(笑)
武田さん
そういう意味では、今と違って部門間の壁がなかったんですよね。今は、設計部門でもそれぞれ分かれているでしょ。昔は、自由に製造現場入っていっても怒られなかったですしね。
当時は、「自分で図面つくったら、自分でつくれ」って言われてました。誰かに頼んでも、自分も一緒になってつくる世界だから。まぁ、自由だったね。

どうやって人を巻き込む?

谷本さん
「Zクラブのソーラー同好会」での活動は、任意だったと思うのですが、どうやってまわりを巻き込んでいったんですか?
チームブルゾンとキャップ
田中さん
別に誰か特定のリーダーがいたわけじゃないんですよ。ちょっと不思議な感じでした。同じ趣味や目標を持った人たちが、自然と集まった感じです。
武田さん
僕は誘われて来たのですが、話を聞いて「いいじゃん、面白そうやからやってみようかな」という感じでした。
メカ好き、クルマ好きが集まってワイワイ♪
谷本さん
Zクラブのソーラー同好会としては、何人所属していたんですか?
田中さん
正直「ソーラー同好会」という名前自体、あまり覚えてないんです(笑)。何人いたっけ?
谷本さん
メンバーとして囲い込んでる感じではなく、部分的に関わる人もいる感じだったんですかね。
田中さん
そうそう。今日は誰と誰が来られるとかね。
武田さん
「こういうことできる人がいるから連れてこよう!」みたいな感じですね。それぞれが勝手に役割分担していました。

大変だけど面白い〜ものづくりの喜び

谷本さん
大変だったことはありますか?
そうそう、これが大変だったかな・・
田中さん
性能の限界が分からないまま設計しないといけないのが大変でした。バッテリーの性能、ソーラーパネルのパワー、最大電流など…。実験して、データを積み上げて、当日ベストに持っていかないといけない。それが苦労っちゃ苦労だけど、面白い面でもある。
レース現場でも配線をはんだ付け!
武田さん
大変だったけど、今となっては笑い話で終わるしね。いろんな違う技術を持っている人と話ができて、とてもよい経験になった。
ものをつくるって、それぞれのパートがあるでしょ。みんなでつくったものが動いた瞬間というのは、やった人しか分からないところがあると思うんですよ。ものをつくる喜びってそこにあるんですよね。目的がクリアできた瞬間は、何とも言えない喜びとか気持ちよさがあるんです。
谷本さん
その気持ち、分かります!
田中さん
実験者っていうか、設計者は必ず「限界を確認したい」という欲があると思うんです。たとえば、「フルパワーは燃焼100%と言われているけれど、120〜130%だったらどのぐらいだろう?」っていう興味がある。
武田さん
目的クリアの瞬間が一番の喜びだとしたら、その次が・・・田中さんが言われたような「極限はどこにあるのか」への興味なんです。
僕らはいろんなものをつくるでしょ?「これって、どこまでもつの?」っていう興味があるんです。

武田さん
設計では「ここまで」っていう予測が立っていても、それ以外の発見があったり、あるいはその逆もある。そういう意味では、このソーラーカーレースはみんながそれぞれの役割を果たした結果ですね。多分みんなそれなりに達成感や満足感を味わって終わった仕事だったんですよ。
だけど、ちょっと心残りだったのは天気が悪かったこと。
一回は太陽の光で走らせたかったな〜

田中さん
それはみんな思ってたと思う。やりたかった・・・
武田さん
僕がレースに出たときは、雨の時も晴れの時もあったんですけど、晴れの方がやっぱりパワーも違うし、面白かったですね。天候だけはどうにもならないけれど、残念でしたね。
アルバムのエコーズZⅡは、いつも雨~♪

まとめ

専門的な知識が必要と思われるソーラーカーづくり。思った以上に、手探りで進めていたことが分かり、驚かされました。分からないことだらけでも、笑いながらどうにかする!そんな当時の雰囲気が伝わってきました。
面白かったのは、おふたりとも「ソーラー同好会」というチームの内部構成やレース当日の順位自体にはさほど関心がなさそうということ。それぞれの「ものづくり魂」が共鳴して自然発生的に集まり、ものを完成させ、結果を楽しむ。まさに技術者!です。後編の記事もお楽しみに。

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