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開発者が語る!ミウラの水素燃料ボイラ誕生秘話
水素燃料ボイラの開発にいち早く着手した三浦工業に、2022年水素燃料ボイラを取り扱う専門チーム「CNボイラ技術課」が誕生しました。
今後ミウラがカーボンニュートラルを見据え、ますます力を入れる水素燃料ボイラの開発。その開発に携わった方々にお話を聞きました。
※本記事の内容は、2023年4月取材当時の内容です。製品情報等、最新の内容と異なる場合がございます。ご了承ください。
なお、最新情報は弊社ウェブサイトよりご確認ください。
今回お話を伺ったのはCNボイラ技術課のお二人
ささき つとむ
佐々木 務
SASAKI Tsutomu
ボイラ技術部 CNボイラ技術課 課長
プロフィール
ボイラのカーボンニュートラル実現に向けて、基礎試験や製品開発を進めるCNボイラ技術課の長として、
テーマの抽出や、各開発テーマの進捗管理、情報収集、開発試験などを行う。
趣味はサイクリング、陶芸、水彩画、旅行。料理が得意!!
【主な所属経歴】
1996年 入社・ボイラ技術部 商品設計課に配属
2010年 GLB技術部 GLB商品開発課に異動
2011年 システムエンジニアリング部 東京エンジ課に異動
2012年 東京MI&トータルソリューション第1部に異動
2015年 熱機器特需部 燃焼機器開発課に異動
2022年 ボイラ技術部 CNボイラ技術課に異動
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はたなか ひろゆき
畑中 宏之
HATANAKA Hiroyuki
ボイラ技術部 CNボイラ課 チーフエンジニア
プロフィール
水素燃料ボイラを実験機レベルからお客様に提供できる状態に仕上げる、エンジニアのリーダー。
さらに、お客様のご要望に合わせたカスタマイズ設計なども担う。
趣味はロードバイク。100km以上のサイクリングなど、意識的に体を動かしている。
【主な所属経歴】
2005年 入社・熱機器特需部 熱機器特需設計課に配属
2021年 FCC技術部 水素機器技術課に異動
2022年 ボイラ技術部 CNボイラ技術課に異動
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「副生水素をボイラの燃料に」2015年ミウラの挑戦がスタート!
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ミウラが水素に関する製品を本格的に手掛けるようになったのは、2015年頃です。
この頃、世間では次世代エネルギーとして水素が注目されはじめた時期でした。
ボイラでは、ソーダ業界で工場の余った水素(副生水素)を使った、大型の炉筒煙管ボイラが既にありましたが、ソーダ業界から「炉筒煙管ボイラよりも、扱いやすく高効率の貫流ボイラで使用できないか?」とご相談いただき、開発に着手することになったんです。
水素を燃料化するための「安全指針」構築に一苦労。
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しかし、【水素=燃えやすく危険な物質】というイメージがあり、当時関わっていたメンバー皆が、「本当に燃やして大丈夫なのか?」という不安を感じていました。
また当時は、水素を燃料として使用するための安全基準というものがまだありませんでした。
当社がメインの燃料として扱っている都市ガスやLPGであれば、こういった使い方をしなければならない、という基準が指示事項として決まっているので、我々もそれに従えばよいのですが、何もないわけですから…。まずは自社で水素を使用するための安全指針づくりから行う必要がありました。これが大変でしたね。
たとえば水素は、燃焼速度(火の燃えきる速さ)が都市ガスの7倍くらい早い(※)という特性があります。
そのため、ボイラの燃料として使用した場合には、ガスの供給側に火が戻ってしまいやすいということも分かりました。
それらを踏まえた設計の安全指針を構成するため、様々な業界に、水素の使用例や安全管理方法をヒアリングするところからスタートしました。
※一財)省エネルギーセンター 「ガス燃焼の理論と実際」 より、13A 39cm/s、水素 282cm/sとして算出。
条件(圧力や空気比など)により、燃焼速度は変わります。
開発の困難を乗り越えたのは、これまでミウラが培ってきたボイラ技術でした。
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通常ボイラは、燃焼中に問題なく炎が付いているか、自動制御で検出器に監視させています。
その検出器は、火炎が発光する光を測定するものなのですが、
水素は燃えたときの炎の光の波長が異なるため、当初試した市販の検出器だと、うまく検知できないという課題が見つかりました。
その課題を解決できたのが、ミウラの強みである「自社設計品」です。
自社製の検知器を用いてみたところ、これが問題なく検出できました。
当社はメーカーでは珍しく重要部品の内製化を行っているのですが、ミウラの内製技術が役立ったと実感した場面でしたね。
また、ボイラマイコンも自社設計していることから、安全制御を検討する際に、様々なテストが可能だったり、
設計変更が容易であったり、効率よく製品化することができました。
はじめて点火スイッチを押したときの緊張感を、今でも覚えています。
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ついに点火テストまで行き着いたのですが、はじめて点火スイッチを押すときは、特別緊張しましたね。
水素がどのように燃えるのか分からず、誰がスイッチを押すのか譲り合いになりました(笑)。
いざスイッチを押してみると、何の心配もなく燃えてくれたのでチームのみんなでホッと胸をなでおろしたのを覚えています。
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もちろん、徹底した安全制御ができているので、
今では特段緊張することもなく他の燃料と同じような気持ちでテストを行えていますよ(笑)。
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2017年、ついに水素燃料ボイラ初号機を納品!
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水素燃料ボイラの開発には試行錯誤がありましたが、2017年「株式会社大阪ソーダ 岡山工場」様に初号機5台を納品させていただきました。
しかし、製品が完成して一安心、というわけにはいかず…現場の設置作業についても従来のボイラとは異なる点が多く、ここでもとても苦労しました。
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従来のボイラですと、据付要領書をもとに営業スタッフがお客様と工事に関する摺り合わせを行います。
しかし、この頃水素燃料ボイラの据付要領書は存在しませんでした。そのため、これもまた一から作る必要がありました。
燃料の取り込み方法や、窒素パージを組み込んでいるのでそれに対するユーティリティの要求仕様書など、当社の営業・FE(フィールドエンジニア)・設計、そしてお客様と何度も打ち合わせした上で決めていったんです。
普段、我々設計スタッフは営業スタッフやFEを通してお客様の声を聞くことが多いので、
このように直接お話をさせていただけたことで得られる情報も多く、それが結果的に製品の標準化の参考になったと感じています。
非常に実のある時間でした。 こうして、無事製品をお客様の工場に設置することができました。
苦労が多かった分、稼動したときにはチームとお客様みんなで喜び合いました。
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初号機を納品させていただいた「株式会社大阪ソーダ 岡山工場」様だけではなく、ミウラの水素燃料ボイラを導入いただいたお客様は、ボイラを起動させて蒸気が出るまでのスピードに非常に驚かれます。
炉筒煙管ボイラの場合だと事前に運転計画する必要があり、起動させてから30分~1時間ほどかかります。
しかし、貫流ボイラになると、5分以内で蒸気が出始めます。生産計画が切り替わった場合でも、すぐに対応できることに大変満足いただいています。
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ミウラの水素燃料ボイラの特長は?
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冒頭の話でも出てきましたが、水素は燃焼速度が速く、逆火しやすいという特性があります。
ミウラの水素燃料ボイラは、火が逆戻りするのを防ぐ逆火防止装置を標準で搭載しました。
いずれの装置を採用するかにあたっても、数々のメーカーのものと比べ、繰り返し検討し、消火性能の高い波板構造のものを採用しています。
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この波板構造型の逆火防止装置は、ガスの流れに対する抵抗が小さいので、お客様の燃料の流量環境に合わせ、水素の供給圧力が低い場合でも支障なくご利用いただけるという利点もあります。
安全性、使い勝手の両面で、一番信頼性が高いタイプです。
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また、燃焼を停止した際に、配管中で残留水素と空気が混ざって可燃混合気体になってしまわないよう、
窒素を使って一掃する「窒素パージ制御」機能も設けてありますので、安全性には非常に配慮できている製品、と自負しております。
そして、当社の水素燃料ボイラは「高速連続制御」も搭載しています。
既存ボイラでも一部実現しているのですが、これにより燃焼効率を連続的に調整することができます。
ガスから水素に燃料を置き換えるというのは未知の領域からの出発でしたが、
ミウラのこれまでの技術を活かし、化石燃料のボイラに大きく劣らない性能も担保することができました。
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水素燃料への基礎理解からはじめなくてはならなかったことは非常に大変でしたが、
この窒素パージ制御や配管レイアウトなど、各数の特許出願を行うことができたのは、
当初からのたくさんの知識の集積があったからこそだと思います。
2022年4月、水素燃料ボイラの専門チームが誕生!
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ますますニーズが高まると予想される水素燃料ボイラを標準化し、多くのお客様にご使用いただくため、
2022年4月「ボイラ技術部 CNボイラ技術課」が誕生しました。
現在CNボイラ技術課には我々2人を含めた6人のメンバーがおり、その半数が20代です。
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彼らは、学生の頃からCO2削減に役立つ製品づくりに携わりたいという考えを持っており、
やりがいを感じながら精力的に製品開発に取り組んでくれています。
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我々は、水素燃料ボイラ専用の試験室で製品の開発やテストを日々行っています。
試験室は圧縮水素設備が設置され、貫流ボイラが長時間運転できる状況となっており、
製品性能の向上に限らず、お客様の要望に沿った水素の利用方法も試験できるようになっています。
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国を挙げてカーボンニュートラルへの取り組みが急がれるなかで、補助金を絡めた水素導入実証を行うお客様が増えています。
それにより、条件に合わせたボイラの開発・設計、そしてスピードが求められます。
たとえば、テストから製品化するまでに3年など、数年前では考え難いような短期間で対応することもあるんです。
こういったケースは今後ますます増えていくと思いますので、
お客様のご要望にお応えできるよう、チーム一丸となって開発・設計に取り組んでいきたいです。
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さまざまな職種が集まるミウラのチーム力で、脱炭素社会実現に向けて進む!
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現在ミウラが主流とする産業用ボイラの燃料(都市ガス)から出るCO2の排出量は、日本全体の約2%になります。
ミウラがより安全で、より高性能かつ安価に蒸気として出せる水素燃料ボイラを開発・拡販することで、
地球温暖化防止に貢献できる影響度は非常に大きいと感じています。
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我々が最初に抱いていたように、水素は‟危険なガス“という意識が根底にある方がまだまだいらっしゃると思います。
しかし、水素燃料ボイラを導入いただいたお客様は皆様、水素燃料が安心して使用できていることを目の当たりにし、感動されています。
今後さらに多くの方々が、水素を一般的な燃料として捉え、ボイラが必要になればミウラの水素燃料ボイラを選んでいただく。
そんな水素社会が訪れることを信じて、ミウラはこれからも水素燃料ボイラ開発に取り組んでいきます。
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※ミウラの水素燃料ボイラの製品詳細は専用ページから!
miuraz.co.jp)https://www.miuraz.co.jp/product/boiler/steam/hydrogen/an.html