この10年 ミウラの変わったところ&変われないところ (前編)
- マクロな環境変化
- ミウラの変化
- ミウラの変われないところ(後編)
- ミウラが目指すべきところ(後編)
1.マクロな環境変化
まずはこの10年間(2012年から2022年)、世界の政治・経済・社会情勢がどのように変化したのかを見てみよう。
政治・経済的には、2010年代はリーマン危機以後の「ポスト・リーマン期」に当たり、先進国各国が長期経済停滞(低成長,低物価上昇率,超低金利)に陥った(i)一方で、中国が高成長しアジアの新興国が存在感を増すなど、日本・EUなど先進国の地位が相対的に低下し世界経済の牽引役が多極化した(ii)とされている。
そしてこの間、経済成長に追随するように世界の人口は約70億人から80億人に10億人増加している(iii)(同期間に先進国の高齢化は進み、日本の人口は約400万人減少している)。
またテクノロジー観点では、2012年は発売開始から5年を経たiPhoneが携帯電話販売で初のシェア首位を獲得した年であり(iv)、その後2010年代から2020年代にかけて通信システムが3Gから5Gに二世代革新した結果(v)、世界のデータ流通量は同期間内で約60倍に爆増している(vi)。
国内のLINEアプリも普及率20%程度から90%を超える(vii)通信インフラとなるなど、IT技術の発達が人々の生活に大きく影響を与えたことは間違いないだろう。
2.ミウラの変化
世界的に大きな動きの見られた過去10年間の中で、ミウラはどのように「変化」しただろうか。低炭素から脱炭素へ、働き方改革、デジタル化・DXなどへの対応が求められる時代に変化する中、2016年には宮内大介代表取締役が現職に就任されるなどリーダーシップの変化もあった。
身近なところでいうと、勤務時間の自由度が増し、服装も私服着用が認められその比率は高まった。またジェンダー平等の影響でお茶出しなどの悪しき慣習がなくなり、紙資料の印刷も大いに減少するといった変化もあった(製品カタログ出荷数は2012年の年間40万部強から2020年には約20万部に半減)。
こうした中で、同期間におけるミウラの「変化」は、ビジネス的な観点から大きく以下の三点をあげることができると考える。
変化1: 事業成長
変化2: 事業領域の拡大
変化3: 働き方の変化
【変化1】: 事業成長
この10年、ミウラは売り上げも利益も諸々ビッグになった
ミウラの売上は過去10年(12年3月期~22年3月期)で約2倍に増加している。これは同期間の日本の実質GDPの増加率の10倍以上(viii)に相当し、ミウラは日本の経済成長を大きく上回る事業成長を遂げていると言える。
ミウラのビジネスパフォーマンスは株式市場においても好意的にとらえられており、同期間での株価は日経平均を上回るペースで上昇し、株主総利回り(キャピタルゲインとインカムゲインの総和)は400%近い高い数字になっている。
これは、①「低炭素=天然ガス化」戦略、②事業領域の拡大・戦略的M&A、③海外事業の成長、などが奏功していると考えられる。
【変化2】:事業領域の拡大
この10年、事業領域がトータル&グリーン&グローバルに広がった
第二の大きな変化が見られる点は事業領域自体の拡大である。過去10年でボイラ以外の事業の売上は192億円から485億円まで拡大している。2017年には業務用洗濯機領域へ参入するべくランドリー事業会社をグループ化するなど、コア事業のボイラ周辺領域へのトータルソリューション展開を行うため、ビジネスとしての構えも拡大している。
これらの取り組みは社内・グループ内にとどまらず、日本錬水株式会社との総合水処理事業における業務提携(2011年)や英国に拠点を置くSOFC技術のリーディングカンパニーCeres Power社との業務用燃料電池の共同開発(2019年)、経産省の助成を受けた固体酸化物型燃料電池等実用化推進技術研究開発プロジェクトへの参画(2013年)、新水素エネルギーの研究開発に取り組むユニコーン企業クリーンプラネット社への出資(2019年)など、脱炭素・グリーンなエネルギー活用にも積極的に取り組んでいることがうかがえる。
また地理的な視点で見ると、寡占化する国内のボイラ市場に対し、市場シェアの観点で伸びしろの大きい海外事業の売上は過去10年で約4倍に拡大した。全社販売に占める海外売上比率は同期間で10%から23%へ増加し、海外関連グループ会社数に至っては6拠点から16拠点に急増している。コア事業の海外展開という観点でも会社の成長につながる事業ポートフォリオが適切にマネジメントされていることが理解できる。
【変化3】:働き方の変化
この10年、ミウラは働き方がさらに改善された
第三の大きな変化は上記の二点と少し視点が異なるが、社員の皆様には最も身近な働き方に関するものだ。「いやいやこの10年働き方は特に何も変わってないよ」という声も当事者の皆様からは聞こえてきそうだが、データに基づく限りミウラの働き方は過去10年で大きく変わっている。
第一にワークライフバランスの観点で大きな改善が見られる。ノー残業デー、C’s Day(私服着用推進日)が始まった2013年からの変化を見ると、月平均の時間外労働時間は27.9時間(12年度)から22.6時間(21年度)に約5時間減少し、同期間で月45時間以上の長時間残業を行っていた社員の月別平均人数は240人から67人に激減している。
「残業を減らした分、休みを減らして働いているのではないか」という見方もあり得るだろうが、同期間の年次有給休暇取得日数は年間平均9.3日(13年度)から12.9日(21年度)に増加している。
このように、社員のワークライフバランスを整えようとするミウラの意気込みは引き続き強いことがうかがえる。
加えて社員の多様な働き方に対する対応も見られる。16年にはフレックスタイム制を部分的に導入し、18年以降は全職種に適用するなど、効率的な働き方に対する会社側の制度設計の動きが見て取れる。
社員のライフステージに合わせた支援の動きもデータ上うかがえる。例えば出産・育児休業者数(年間利用者数)は60人(13年度)から98人(21年度)人に増えており、育児短時間勤務者数(年間利用者数)も41人(13年度)から136人(21年度)人に増加している。
男性の育児休業取得率についても直近で1.9%(20年度)から15%(21年度)に大きく上がるなど(女性の育児休業取得率は21年は100%)、職場レベルでも出産や育児に対するサポートの必要性に関する理解が高まっているのではと想像する。
ダイバーシティ目線でもスタッフ職における女性管理職比率が8.1%(13年度)から15.8%(21年度)にほぼ倍増しているなど、女性活躍の機会はミウラでも広がっている。
年齢という観点では、興味深いデータではあるが、社員の平均年齢が13年から22年のデータで見る限り、37歳から39.9歳と大きく上昇していない。想像されるのは、同時期でのグループ連結の総社員数が3,893人から6,070人まで増加する中、定年退職した社員の退出もあり、また平均年齢を押し下げる若年社員の入社も多かったのではないだろうか。
上記の種々の良好な変化の結果、社員の皆様にとっても働きやすさが向上したのだろうか、正社員の平均勤続年数は 12.6年(13年度)から14.7年(21年度)に押し上げられている。ビジネスパフォーマンスという視点でも、同期間の社員一人当たりの売上は19.1百万円から23.7百万円に増加しており、一人当たりの営業利益に至っては1.5百万円から3.2百万円と2倍以上に伸長している。
ここまでがミウラの「変わったところ」であり、この10年でおおむね順調な変化を遂げていることが見て取れる。一方、「変わるべきだが変われていない」部分はないのだろうか?後編では客観的に見たミウラの課題とそれに対して取り組む姿勢に関して分析してみたい。
~後編に続く~
参考
i「右派ポピュリズム政治とヨーロッパ経済」(田中素香、比 較 経 済 研 究 第57巻第2号(2020年)1-14頁)、pdf (jst.go.jp)
ii 「リーマンショック後の10年間で世界経済はどう変わったか」(日本総研、Viewpoint 2018年) (jri.co.jp)
iii 人類誕生から2050年までの世界人口の推移(推計値)グラフ(国連人口基金、2022年)、UNFPA Tokyo | 資料・統計
iv「米国で「iPhone」が初の首位、2012年Q4の携帯電話販売台数で」(EE Times Japan、2013年2月)、 (itmedia.co.jp)
v「情報通信白書、移動通信システムの進化とその影響」(総務省|令和2年版)、(soumu.go.jp)
vi「世界のデータ総量ってどのくらい?データ総量、データ通信量(IPトラフィック)の意味から最新の予測まで徹底解説!! 」(データのじかん、2020年)、 (wingarc.com)
vii 「LINEアプリがどのくらい使われてるのか調べてみた」(株式会社アイリッジ、2022年)、(iridge.jp)
viii 日本の実質GDPの2011-2022年の成長は約4%(国民経済計算(GDP統計) : 経済社会総合研究所 – 内閣府 (cao.go.jp))